文春文庫: 三国志 第七巻: 宮城谷昌光
文春文庫の宮城谷昌光の三国志第七巻を読了した.
今巻は劉備が孫権の妹を正室として迎える場面から, 蜀を制圧する場面ほどまで書かれていた.
向後, 桃園の誓いを果たした義兄弟三人が相次いで亡くなり, 劉備が治めていた荊州は呉に飲み込まれ, 諸葛亮をはじめとする蜀に残された遺臣と, 曹操が病没した後の国王である曹丕が束ねる粒ぞろいの魏の臣下と漢中を奪い合う, という張りつめた展開を知っている私は, その兆しを見逃すまいと身構えて読むことになった.
宮城谷昌光の書く歴史小説には他の作家では省略してしまうような, 歴史的雑学がふんだんに盛り込まれている. これは読者に馴染みのない史書の中の世界の音, 光, 香り, 肌触り, 味わいをリアルに容易に感じさせる工夫であろう.
また, 史書は時に沈黙してしまうことがある. そこでは, 中国史, 中国文化を長年観察, 研究してきた豊富な知識を用いて, 飛躍のない現実的な推測を加えている.
そうして, 一般の三国志演義に見られるような伝説をなるべく避け, 司書に忠実に, リアリティに重点を置いた結果, 作中の登場人物の足が地に着き, 人間臭い愛着のあるものになる.
宮城谷昌光が描こうとしているのは, 決して大昔の中国の伝説ではない.
現在も普遍的に存在する, 人の心の動き, 人の関わり方である.
一読すると蘊蓄が多い, 他の三国志と比べて盛り上がりに欠ける作品のようだが, 一旦三国志というくくりを取り除いて読んでみると, 栄達と零落, 生と死に翻弄される登場人物一人一人にドラマがある.
私はそこに魅力を感じるのだ.
第八巻は来年の10月に発売予定であるが, 待ち遠しく感じる.
